第67会期 国連総会 第一委員会(67th UNGA DISEC)
- 議題
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Prevention on an Arms Race in Outer Space
宇宙における軍備競争の防止 - 会議設定
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募集人数 48 名(ペアデリゲーツ含む) 会議監督 萩中 洲太
(神戸研究会 大阪大学法学部4回生)議長 岡見 有純
(京都研究会 立命館大学政策科学部3回生)秘書官 天沼 達彦
(駒場研究会 慶應義塾大学商学部2回生)使用言語 日本語・英語/日本語/日本語
(公式/非公式/決議) - 宇宙と人類の新しい半世紀へ――――――
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We choose to discuss issues of outer space in the new half century,
not because they are easy, but because they are hard,
because that challenge is one that we are willing to accept,
one we are unwilling to postpone, and one which we intend to win…
- 国割り
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- 議題解説
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51年前、ガガーリンが初めて宇宙を旅した人類になりました。そのあとの米ソの苛烈な競争によって、人類はあっという間に月に到達する偉業を達成しました。私たちは、宇宙と聞けば急速な科学の発展を現実のものとした輝かしい部分を想像します。一昨年、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還を果たした時のブームは記憶に新しいでしょう。しかし、科学技術の発展とは裏腹に、宇宙の軍備競争の防止は極めて遅々たるものであり、依然として国際社会は有効な方策を取ることが出来ていません。
どうして軍備競争の防止は進まないのでしょうか。その背景には、人工衛星開発と同義にとらえられがちな弾道ミサイルや、そのミサイルを迎撃するシステムを巡る政治上の対立があります。私がこの募集要項を執筆している段階でも、北朝鮮が4月に人工衛星を打ち上げるという声明を発表し、大ニュースになっています。ミサイルを開発する側も、迎撃する側も軍備競争を過熱させているのですが、その競争をストップさせることは大変難しいことが、このような身近な例から分かるかと思います。
ジュネーブ軍縮会議という多国間軍縮フォーラムにおいて、「宇宙における軍備競争の防止」は討議されていますが、1997年から実質的討議が止まっています。本会議では、このような軍縮会議における「宇宙における軍備競争の防止」の現状について討議する、国連総会第一委員会の定例会議をシミュレーションして頂きます。有人宇宙飛行51年目という、新しい半世紀を迎える節目にこのような会議を行うことは非常に意義深いことです。 - 議題メッセージ
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これまでシミュレーションされてきた総会第一委員会の会議と今議題の大きく異なることの一つは、人間の道徳的要請に基づかない、ということです。「核兵器は残虐である、ゆえに禁止すべし」「○○のような兵器の使用は人権を侵害する」という議論を聞いたことが多いのではないでしょうか。本会議ではそのような規範的アプローチではなく、安全保障を高めることに関しての合理的アプローチを必要とします。軍拡も軍縮も、安全保障の追及という観点からは手段として何ら変わることはありません。論理の積み木の上に、最後に何が残るのか。この答えは参加者皆さんにかかっています。新しいルールを作ることも、現状維持にすることも可能です。たとえ現実と異なる結果だとしても、皆さんと「人に伝えられることができる、伝えるに値する」会議成果を残すこと。これが今議題を選択した上で、皆さんに投げかける私のメッセージです。
アメリカ大統領・ケネディが「月に人類を送る」と言ったアポロ計画のように、困難に立ち向かうあくなき探究心を持つ皆さんの挑戦を待っています。
この夏は、関西大会・国連総会第一委員会へ!
【参考文献・URL】
NPOピースデポ「宇宙を戦場にするな」『核兵器・核実験モニター 第274号』 2011/3/15最終閲覧 青木節子『日本の宇宙戦略』(慶應義塾大学出版会、2006年)
- 会議コンセプト
- 宇宙法や宇宙での国際政治は、成立してまだ日の浅い分野なので、既存の枠組みなどが他の議題より小さいことが特徴です。そのため、私たちでも概念のスタートに立ち戻り、過程を丹念に追うことができます。一歩一歩論理を組み立てることによって「何を」解決しなければならないかを明白にしていきましょう。これらの作業を通して、(たとえ相手に受け入れられなくとも)相手に自分の言いたいことを説明するパブリック・スピーキングの能力を高めることが本会議の目標です。また、「どのように」「なぜ」解決するかを考えることによって、企画力や発信力を高めることも目標です。
- 大会テーマ×議題
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まず、議題ですが、この議題は”PreventiononanArmsRaceinOuterSpace”です。日本語にすると、「宇宙における軍備競争の防止」となります。開催場所は67会期国連総会第一委員会です。
要点(1)宇宙の軍備競争を防止するには、宇宙条約をどう変化させるべきだろう? 本議題の扱う領域は「宇宙」です。では、宇宙を利用する、とはどういうことを指すのでしょうか。もっと過激に問いかけると、宇宙戦争とは何でしょうか。
スター・ウォーズやインデペンデンス・デイといった映画を見たことがおありならば、サイエンス・フィクションの世界を想像されるかもしれません。けれども、映画と現実は異なりますし、我々は「外交」を扱うのであって「戦争」を扱うのではありません。インデペンデンス・デイのストーリーでは、異星人に対抗するために人類が呉越同舟、地球連邦創設、のような絵空事(注1)もありました。しかし、そういうイメージではなく、参考文献の一つが示すような「そうした宇宙開発のイメージを排し、あくまでも宇宙開発を国際政治の一つの舞台として捉え、宇宙開発を進める国々がどのような意図と目的をもって、宇宙開発に投資し、宇宙システムを運用し、国際政治に影響を与えようとしてきたのかを分析」するアプローチを本会議でも採用します。そうすると、宇宙戦争は実際におきていませんから、宇宙での競争とはすなわち軍備競争であって、レーザービームが飛び交うような戦争状態ではないことが理解できると思います。また、宇宙開発も純粋に民生的な部分もあるでしょうが、軍事的に利用されることが多いことも付記しておきたいと思います。
現状の宇宙の利用については詳しく後に述べます。ここで大事なのは、宇宙の利用法ではなく、その利用に対してどのような国際法的規制や合意があるかを確認することです。なぜならば、我々が模擬するのは国連総会会議であり、総会から表出する情報とは成果文書および公式討議議事録であるからです。新たに成果を出すときは、当然情報分析なども重要ですが、もっと重要なことは、公式な国家間の約束事は何か、です。そして、その約束事に関し、本会議で最も重要なのが宇宙条約第IV条です。
中身もまた後述ということにして、宇宙条約の最大の問題点をざっと見ます。それは、制定からすでに45年近く経っている、ということです。この45年の間に、当然宇宙の軍備競争を巡る状況は変化しています。冷戦も終結しました。軍事技術も進化しました。何より、宇宙にアクセスできる国が増加しました。皆さんはまず、この短い歴史の中で「変わったこと」そして「変わらなかったこと」を明確にしていくことが必要です。その作業によって、自国の意見を生成することができるでしょう。
しかし、依然として宇宙にアクセスできない国も本会議には多数存在します。宇宙先進国のみを扱う会議には、意図的にしていません。その理由は2点あります。1点目は、ここ数年で宇宙の利用の在り方が大きく変わったことです。自前で人工衛星を打ち上げられる国は依然として少数ですが、衛星技術のレンタルなどによって気象情報を入手することなどは、どんな国でも考えられます。2点目は、議論が未来を見据えたものであろう、ということです。45年前の宇宙条約が現在でも適用されているように、国連総会での議論に参加する際は極めて高い先見性を要求されます。自国の軍事状況、未来への政策などを勘案して、どのように意見を展開するかが問われているのです。
ここまでが要点の一つ目です。では二つ目に移りましょう。
要点(2)この議題が国際社会で上手く処理されていないのはどうしてだろう?
45年間、宇宙条約が不変だったことは、一方でこの問題が国際社会で上手く処理されてこなかったことを意味しています。何故でしょうか。
最初に、宇宙を巡る競争が熾烈だったことを挙げます。初期の冷戦下でのアメリカとソ連の対立は、宇宙空間をどちらが先に制圧するか、を巡った戦いを引き起こしました。この二者関係が、核兵器の運搬装置の三本柱である大陸間弾道ミサイル(ICBM)の規制を巡って、宇宙条約の改正を尽く阻んできた、という問題があります。
次に、そもそもこの宇宙条約、特にIV条の改正部分に関する部分を扱う会議場が、国連総会ではなくジュネーヴ軍縮会議というところに存在する、という重要な問題を挙げます。ジュネーヴ軍縮会議は、これもまた後に詳しく見ていきますが、コンセンサスという方式を採用していまして、全加盟国が賛成しなければ何の決定もできない場所です。一方で、世界の軍備管理・軍縮を話し合う唯一の多国間フォーラムとも規定されています。この二つの決まりごとが重なると、重要な世界の軍縮問21題が、どこか一カ国でも反対するとまったく進展しないことを意味してしまいます。近年、この問題がいろんな会議で指摘されるようになり、本会議にも重要な影響を与えつつあるので、会議の要点になります。
会議の位置づけ・マンデート
この問題は、実は本会議の位置づけにも関連します。66会期以前の決議を見ると分かりますが、国連総会とは別にジュネーヴ軍縮会議に同名の議題が存在するのです。しかし、ジュネーヴ軍縮会議はここ15年間ほど、様々な理由から実質的な議論を行っていません。そのため、このような問題に危機感を抱く国々が、国連総会でどのようにすれば本議題を解決できるか考察しているわけです。 ジュネーヴ軍縮会議で扱われているメイン・トピックが、本会議以外に3つあります。正式な名称はこれまた後述ですが、ざっと言うと「カット・オフ条約」と「核兵器禁止条約」、「非核兵器国に対する消極的安全保障の付与」です。これらも本議題と同様、国連総会でも扱われている議題です。これらの議題と本議題の優先順位を巡った対立が、ジュネーヴ軍縮会議を停滞させている大きな原因の一つなので、これら議題との関連性も考える必要があります。(ただし、これらの議題は、それぞれが単独で全国規模模擬国連大会の議題になるような難易度なので、具体的な中身などの深い部分まで掘り下げる必要はありません) 大会テーマに対する解釈――「国連ってなんであるの?」
大会テーマに対して。ここまで読んでくださった方ならば、本議題は要点2がテーマに大きく関わるのかな、と想像されるかもしれません。実質的議論が行われていないジュネーヴ軍縮会議に対して、国連はどのように関われるのか。どのように存在することができるのか。答えの出ない問いですが、シミュレーションすることで我々は深い含蓄を学ぶことができるでしょう。
それだけには留まりません。本議題の要点1側、つまり宇宙軍事利用の中心的イシューに関しては、もっと大きな意味を皆さんに投げかけるでしょう。「平和」とは何か――とりわけ、国民の平和を保障するための、”国家”代表としてのdelegateが考えなければならないことは何か――という問いです。今後詳しくBGで見ていく部分ですが、たとえばミサイル防衛政策への視点について。過剰な防衛兵器の登場は、最終的に安全保障を達成できるのか否か。古典的ではありますが、「安全保障のディレンマ」と呼ばれる問題を再考させてくれます。その際に、国連が安全保障のディレンマに対してどのように関われるのか、は、会議監督としては個人的には懐疑的な部分もあり、希望を持つ部分もあります。安全保障理事会に関しては、この分野、つまり軍縮分野では(個人的に、今のところ)私は特に期待していません。ミサイル防衛政策は、拒否権をもつアメリカやロシアなどの安保理常任理事国が主要アクターだからです。そこで、非同盟諸国などの加盟国が集まる総会、とりわけ第一委員会がどのように動けるのかが重要であろうと考えています。皆さんの第一委員会での議論が、「平和」に対する国連のレゾン・デトレを浮き彫りにすれば、これほど幸せなことはありません。
また、市民の場のプラットフォームとしての「国連」も近年注目されていると思います。市民やNGOといった組織は、国家の指向する方向とは異なる安全保障を求めることもしばしばあるでしょう。核兵器による「恐怖の均衡」を拒否し始めたのも、市民であったはずです。この視点も「国連ってなんであるの?」という問いに反応するに欠かせない材料の一つでしょう。ただ、PalestineやReachingCriticalWillといったアクターは加えましたが、残念ながら自分の会議が、この近年の市民というアクターが増加しつつある流れを反映できているとは思えません。けれども、模擬国連のよいところは、市民、それもこれから市民となる学生が思考することではないでしょうか。つまり、これから市民になるにあたって、「国家の代表」という観点に忠実にあろうとしながらも、市民の心を忘れない、そんな状況での葛藤を経験することが、こうして大会の場で議論する我々の特権であるように思えてならないのです。
「平和」に関して、批判的にかつ理想を追い求めながら、皆さんとアプローチしていけるならば、たいへん嬉しく思います。
注1) このような空想の例として、他にも『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』といったアニメーション作品を挙げることができます。このような例は無数であり、我々は知らず知らずのうちに宇宙に関する誤ったイメージを植え付けられています。(鈴木,『宇宙開発と国際政治』p.2を参照し、独自に脚注作成)
注2) 鈴木一人(2011)『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)p.3
- 国選びのポイント
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会議監督の考える対立軸の1つ目は、MD(注1)を推進するか反対するか、です。図でいうと、緑の傘の下に位置する国々(NATO・日本など)とそれ以外、ですね。
2つ目は、宇宙で活動しているかどうかです。水色の部分とそうでない部分です。 3つ目は、地域紛争です。これは二項対立のような対立軸ではありませんが、安全保障を扱うときは必ず着目しなければならないでしょう。
4つ目は、CDに対するスタンスです。Pakistanや中露など、CD(注2)の議論を実質的に停滞させてきた国家と、CD以外の部分で議論を進めようとするAustriaなどの国々で対立します。(※ 実質的に停滞している原因が何であるか、責任がどの国にあるのか、は議論に依存するでしょう)
(※ 図には、要点1と2の「なんとなく」な対立軸を挿入しておきましたが、これも曖昧です。) この対立軸に当てはまらない国も、自国の安全保障状況を勘案して立案・投票を行うことができます。一見、宇宙と何の関係もないような国でも、宇宙を取り巻くルールのなかに必ず含まれています。
本会議の対立軸は、図を見るだけでも非常に複雑なのが分かるでしょうか。逆に言えば、それだけ柔軟に提携関係を組み替えることが可能であり、delegatesの発信力によって対立軸も変動するはずです。会議で想定する対立軸というものは、各大使がそれぞれ自国を中心に据えて考えるものではないでしょうか。この解説が皆さんの頭の中に新しい対立の分析方法を生み出し、希望の国を探し出す助けとなり、そして会議の後も、様々な国際情勢を分析する際の一助になれば、と願います。

注1) MD: Missile Defense, ミサイル防衛。アメリカの、敵国からの弾道ミサイルを撃ち落とす戦略。こちらの時事通信の特集が詳しい。
注2) CD: Conference on Disarmament, ジュネーブ軍縮会議
- プレス
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今回、第67回国連総会第一委員会「宇宙における軍備競争の防止」の会議でプレスを務めさせていただきます、神戸大学4年の後藤香菜子と申します。
今会議では、現在の宇宙での軍事問題について、そもそも宇宙での軍事活動はなにか、どのような軍備競争がされてきたか、現在ではどのような法規制が存在しているか等を把握したうえで、現在規制できていない問題は何か、その解決のためにはどうすればよいかを話し合っていきます。宇宙法の内容や問題点の理解による「現状の把握」に加え、「条約」「慣習法」のもつ効力・その成立までのプロセスの差異を理解することで、国際的な問題に対する様々な解決策について把握することも参加者には求められています。
この分野での議論の歴史はまだ浅く、上述したとおり、①現状把握→②解決策の検討という手順を自分たちで丁寧に追っていけることが特徴となります。それゆえ、会議の参加者にとっては、議題・論点について自分自身の頭で論理的に考える力、自分の言葉で相手に考えを述べる力を養うことのできる会議となっているでしょう。
プレスとしてもこの点に着目し、会議参加者とは離れた会議を概観する立場から、参加者自身が「自分の頭で考えられたか」「自分の考えを伝えられたか」という点について客観的に振り返られるような報道としていきたいと思っています。また、会議に参加されていない方でも内容のわかりやすい「読み物」としての面白さを目指していきたいと思います。