ヒト、モノ、カネが世界的に流通するこのグローバリゼーションの時代の中、私たちは単に利益だけを享受できているのでしょうか。もちろんそれだけではないでしょう。グローバル化による負の影響は、様々な研究者によって各々の視点から指摘されています。そして、それらの影響の一つとして、文化消滅が加速しつつある、という事実があります。
主に西側先進諸国に広く普及するグローバル化した文化は、他国の文化に干渉し、特に途上国が持つ多様な文化を圧迫しています。途上国には多様な文化が存在しますが、その文化は脆弱性も同時に持ち合わせており、グローバル化によってそれらの文化はさらなる危機的状況に陥っています。言語を例に挙げると、世界に存在するとされる5000〜6700の言語の約半数が絶滅の危機に瀕していると予測されており、そのほとんどが途上国のものです。しかし逆に、英語や中国語をはじめとする、世界全体の言語数における1割にも満たない数の言語というのは、世界の9割を占める人口に話されているというのが現状です。このように、多様な文化が少数の文化マジョリティによってマイノリティの立場に追いやられてしまっているのです。
また、経済や情報のグローバル化がすすみ、文化の共有が促進されるというプラス面での効果がある一方で、文化の画一化、地域文化の創造性・アイデンティティの喪失など、マイナス面での影響も懸念されています。 このような懸念の中、文化についての国際的な議論が国連教育科学文化機関(UNESCO)において積極的になされてきました。2001年には、文化間の相互理解を深め、世界の平和と安全に結びつけるという目的のもと、「文化多様性に関するユネスコ世界宣言」が採択され、そして、その行動計画としての「文化的表現の多様性の保護と促進に関する条約(文化多様性条約)」が2005年、米国とイスラエルの反対に遭いながらも、採択されました。
この条約は2006年12月に発効要件を満たし、今年3月に発効します。しかしながら、米国が、この条約がさまざまな点で自由貿易を阻害する恐れがあること、言論の自由に対する弾圧の道具として使われる恐れなどを理由に強く反対していることや、条約の文言の曖昧さなどにおいて問題が残されており、これからの指針作りが必要とされています。
今回の会議では、以上のUNESCOでの議論の延長として、今年より開催される条約の締約国会議という設定の下、この文化多様性条約の履行について議論していただきます。この条約は、特に映画コンテンツの自由貿易化の議論においてアメリカの反対に遭っており、議論の余地を残したまま採択され、今年の3月18日に発効しました。参加者の皆さんには一国の立場から、この問題を残した条約の今後、そして国家の持つアイデンティティの保護・促進のための効果的な対策を考え、議場に発信していってもらいたいと思います。そして、この世界の多様性の実態を、リサーチや実際の議論の中で感じ、その議論をUNESCOという専門機関の立場から発信してもらいたいと思います。
文化という議題は、普段の活動ではなかなか議論されていないしょう。しかし、テレビなどで知ることのできる分野とは違った分野を発掘してみるのもまた模擬国連をする上での楽しみであると思います。
文化という議題に興味のある方はもちろんのこと、今までとは違う新たな分野を発掘されたい方々の参加もお待ちしております。会議監督としても、会議に参加された皆さんが終わった後に楽しめたと思えるような会議にできるよう、精一杯取り組んでいく所存です。
※ ニューズレターvol.5に東ディレクのインタビューが掲載されていますので、そちらもご参照下さい。