では、次に「難民保護に関する法的な動き〜世界編〜」を振り返ってみましょう。こちらも基本的にレジュメに沿って説明していきます。
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<難民保護に関する法的な動き〜世界編〜…議題解説者:大川孝司>
ここでは、難民問題を考える上で重要な条約や宣言とその内容を見ていきました。世界人権宣言第14条、難民の地位に関する条約、難民の地位に関する議定書、領域内庇護宣言について振り返ってみましょう。
@世界人権宣言・・・1948年、第3回国連総会にて採択された。主に市民的及び政治的権利(前半)と経済的、社会的及び文化的権利(後半)からなる。特に重要なものとしては、自由平等(第1条)、差別の禁止(第2条)、拷問・虐待・残虐刑の禁止(第5条)、迫害からの避難(第14条)。
第14条についてみてみると、
<第14条>
すべて人は迫害を免れるため、他国に避難することを求め、かつ、享受する権利を有する。
.
となっている。ここで重要なのは、人は他国に避難できる権利を持っているということである。しかしながら、個人が権利を有するということは認めつつも国家が庇護を提供しなければならないと義務付ける国際条約や協定は存在しない。国家は難民に対しても、独自の判断で庇護を与えるかどうかを決定できる。
A難民の地位に関する条約・・・1951年に採択され、現在142カ国が加入。その名の通り、難民の「地位」に関することが規定されている。主な内容としては、難民の定義、権利、遵守する義務などが規定されているが、難民の受け入れに関してはまったく触れられていない。また、特に重要なものとしては、第33条のノン・ルフルマン原則(迫害の恐れのある国や地域に追放・送還してはならない)である。
<難民条約の問題点>
a 定義が狭いこと
難民条約での難民の定義は以下の通りである。
<第1条A(2)>
1951年1月1日前に生じた事件の結果として、人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であることまたは政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために、国籍国の外にいる者であって、その国籍国の保護を受けることができない者またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者
難民の発生原因には紛争、開発、自然災害、ジェンダーなど多くあったが(議題解説「難民とは・・・」参照)、難民条約では人種、宗教、国籍、特定の社会集団の構成員であること、政治的意見しか定義されていない。この5つの理由によって難民と認められた人を「条約難民」といい、それ以外の理由で難民と認められた人(国家の裁量による)は「広義の難民」という。これらの間で保障される権利などの差は国によって違うが、この条約が採択されたジュネーブ全権会議での最終文書では「できるだけ広義の難民にも条約難民と同じ待遇を与えることを期待する」となっている。
また同じく第1条B(1)においては、
<第1条B(1)>
この条約の適用上、Aの「1951年1月1日前に生じた事件」とは、次の事件のいずれかをいう
(a)1951年1月1日前に欧州において生じた事件
(b)1951年1月1日前に欧州または他の地域において生じた事件
となっている。これは難民の定義ににあった迫害の理由に加えて、時間的制限(a,b)と地理的制限(a)がついているということである。これは第2次世界大戦のヨーロッパでの難民処理という役割がこの条約にあるということを示している。各国は難民条約に加入する際、(a)か(b)のどちらかを選択し、その旨を宣言することになっている。ほとんどの国が時間的制限を選択しており、地理的制限を選択しているのは、コンゴ、トルコ、マダガスカル、モナコのみである。
b. 認定手続きが述べられていない。
c. 難民が一国に辿りついた際に、どう扱うのか述べられていない。
d. 入国、在留に関する規定がない。
e. 身体の安全に関する記述がない。
f. アメリカが参加していない。
アメリカは時間的制限、地理的制限があることを理由に参加していない。また、アジアでは多くの国がまだ参加していない一方、ヨーロッパ・アフリカ・中南米ではほぼすべての国が参加している。
B難民の地位に関する議定書・・・1967年採択、現在142カ国が加入。内容は難民条約とほぼ同じで、定義の時間的制限と地理的制限のみを撤廃したもの(ただし、地理的制限については、条約加入時に地理的制限を宣言していた国に対しては義務の拡大を宣言していない限り適用されない。
このような定義拡大の流れは、大戦後、世界各地で難民が発生し、ヨーロッパのみに制限することに意味がなくなったこと、加えて60年代、アフリカの新興国が次々に条約に加入したこと、1967年以前でも、ハンガリー危機などで定義を拡大解釈して難民保護にあたったなどから起こった。
C領域内に関する庇護宣言・・・1967年国連総会にて採択。「領域内庇護」とは、国家の領土内で庇護を与えることであり、逆に「領域外庇護」とは国外の大使館などに逃げ込んできた人を保護することである。世界人権宣言をもとに庇護権の議論が高まったこと、庇護権は国家に与えられた権利だという考えから個人ひとりひとりに与えられたものであるという考えに移り変わったことなどによって議論が起こった。主な内容としては、難民の追放や強制送還の禁止、難民が国際社会の関心事であること、国家が完全な庇護を与えない場合にも、暫定的な庇護を考慮することなどである。
この領域内庇護に関する宣言を条約化する案が1977年に持ち上がったが、ノン・ルフルマン原則が義務ではなく権利という表現に改められたことによって西欧諸国の熱が冷め、結局採択には至っていない。
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おおまかに振り返ってきましたが、いかがでしたか?なにか分からないことがあればkaori_shingaidai@yahoo.co.jpまでお願いします。この「難民保護の法的な動き〜世界編〜」は次回の〜地域編〜を理解するうえでも、会議を行ううえでも特に重要なものですので、しっかり理解しておいてくださいね。
文責 岡田香織